男の闘い(1)

��序章>

マシントラブルで出遅れたミズガキカート、それは男のプライドをかけた男の闘い。

戦いは前日の夜から始まっていた。水泳部の仲間であるイマニシ(30)、ミズガキ(28)、イナガキ(27)、クロタキ(30)は前日から温泉旅館に宿泊しレースに備えていた。誰もが明日のレースにむけて集中力を高めていた。

温泉旅館には通常の大浴場のほかに、プライベート的に貸しきれる個室湯がいくつかある。そのうちの1つを貸しきることのできるクーポンを用意していた彼らは迷うことなく「酒樽風呂」を選択し、夕食前につかることに決めた。

しかしいざ「酒樽風呂」を目にした4人は言葉を失った。

・・・せまい。

男4人、いくら同じプールで競い合った中とは言え、ハダカでこの1つの酒樽の中の湯につかるのは難しい。それはひとつの賭けだった。

・・・誰がポールポジションをゲットするのか。

最初に飛び出したのは意外にもイマニシだった。他の3人が酒樽風呂を見て唖然としているスキをつき、気がつけばひとり引き戸をあけ早々に体に湯をかけ湯船に使った。その間タイムにしてわずか32秒125。圧勝だった。

不意のトラブルに襲われた者がいた。ミズガキだ。酒樽風呂に動揺したのか、直前でマシントラブル・・・ではないだろうがトイレへ駆け込んだ。事実上の戦線離脱である。

イナガキは他の3人に比べ体が大きい。ということは必然的に湯船の中を占有する割合が大きい。これは致命的だ。ただでさえ狭い酒樽風呂、先にイナガキがつかるようなことがあれば入るスペースがなくなるどころか、お湯までなくなってしまう!!

次に湯船に飛び込んだのはクロタキだった。フロントロー確保。次がイナガキだっただけに危ないところだった。そしてイナガキ。なんとか体を湯船に沈めることができた。ミズガキはまだピットから出てこられない。

ポールポジションを獲得したイマニシはこのとき思った。

・・・明日はいただきだな。

敗れたイナガキ、クロタキはじくじたる思いで明日の逆襲を那須高原の夜空に誓うのであった。

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カート朝焼け.jpgいよいよ決戦の日の朝だ。レースのことを考え前日23時には就寝し体調は万全だ。みなそれぞれに本番での作戦を頭に描きつつ、ミズガキ・ステップワゴンで決戦の地「モデナ・グランプリ・サーキット」へと向かった。

��人のうちイナガキとクロタキにはカート走行の経験があった。そのためこの2人が若干有利であることは疑いようもない。しかもこの2人の趣味は自動車で、それぞれ自分の車をチューニングし、筑波サーキットでの走行を楽しんでいるほどの者たちである。特にイナガキは趣味への投資は半端なものではなく、彼の愛車、黒い「ランサー・エボリューション5」はそのままレースへ出してもおかしくないほどのチューニング・改造が加えられていた。そのため関係者からは「黒い爆撃機」との異名がつけられているほどである。

クロタキにはある考えがあった。一般的に車と名のつく乗り物では、重量が軽ければ軽いほど運動性能全般が高まる。特に加速性能、ブレーキ性能では大きな差が出てくる。つまりおよそ30キロほどあるイナガキとの体重差を利用すればヤツを倒すことも不可能ではない、と。またイナガキが普段「重量級」とも言える超馬力の車に乗っているのに対し自分はコペンという軽自動車のスポーツカーであることから、コーナーリング勝負のライトウェイトスポーツでは自分が有利であるとの考えもあった。唯一の不安材料は「いざ自分がギリギリで勝利したとき、体重を言い訳にされると悔しいな」ということであった。

イマニシは初めてのカート走行だ。しかし昨晩ポールポジションを獲得したことからも決して侮れない存在であることは言うまでもない。また体重面でもクロタキとほぼ並んで4人中最も少ない。また彼は国を動かす優秀な公務員である。ミスの許されない職場でつちかわれた集中力は他の追随を許さないものがあるはずだ。最初の練習時間中に、カートという「職場」にどれだけ順応できるのか、それがカギだ。

しかし、本命は昨日出遅れたミズガキその人である。彼は大手自動車メーカーに勤務する本物の「車マン」であるからだ。実際に自動車の開発、現在は特にアンダーパネルの作製に多大なる貢献をしており、車に関する技術的な知識では他の3人とは比べようもないほどである。そして何よりも彼の血にはその自動車メーカー創業者の「スピリット」が熱く流れているのだ。創業者の名を汚さないためにも、絶対に負けるわけにはいかない。また今回は彼の地元での開催ということもあり、地元の大勢のサポーターの前で無様な走りはできない、ということも彼を燃えさせるひとつの理由であった。

念のため整理しておこう。

体重ランキング(軽い順)
①イマニシ ②クロタキ ③ミズガキ ④イナガキ

カート経験ランキング
①イナガキ ①クロタキ ③ミズガキ ④イマニシ
※イナガキ・クロタキは同程度

クルマ知識ランキング
①ミズガキ ②イナガキ ③クロタキ ④イマニシ

クルマ大好きランキング
①イナガキ ②クロタキ ③イマニシ ③ミズガキ
※ミズガキは実はクルマにあまり興味がない。仕事なのに。

職場のカタさランキング(カタい順)
①イナガキ ②イマニシ ③クロタキ ④ミズガキ
※イナガキは大手金融機関、クロタキはシステム会社

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レースは次のような順序で進行される。

①練習走行 兼 タイムアタック(10分間)
②予選(10周)
③決勝(20周)

予選はタイムアタック上位から順に、決勝は予選の上位から順に1番からグリッドが与えられる。当初4人は「予選順位下位を上位グリッドにする」案を持っていたが残念ながらクラッシュの危険性が増えるとの理由でサーキット側に却下されていた。

��時10分、ドライバーズミーティング。ある程度想像していたことではあったが「スピンして自力復帰できない場合はエンジンを切りマシンを降りて、手でマシンを持ち上げ方向を変える」とのルールが提示された。つまり、一度スピンをすると致命傷となる危険性があるということだ。本番では速さ以上にスピンをしないこと、ミスをしないことが重要だ。4人それぞれが頭の中に刻み込んだ。

次回:男の闘い(2)タイムアタック編 乞うご期待!


2 件のコメント :

  1. 酒樽風呂・・・入ってみたい!!

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  2. 力作ありがとうございます!
    第二回大会は東京でやりましょう!

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